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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和61年(ネ)151号 判決 1989年9月27日

熊本市清水町大字新地七四八番地二

控訴人

谷冨史直

同所同番地

控訴人

開成工業株式会社

右代表者代表取締役

谷冨史直

右両名訴訟代理人弁護士

東敏雄

鹿児島県国分市福島一丁目九番二六号

被控訴人

井関鉄工株式会社

右代表者代表取締役

井関修二郎

右訴訟代理人弁護士

塚本安平

塚本侃

右輔佐人弁理士

菅原弘志

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の申立てた裁判

1  控訴人ら

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人は、原判決別紙イ号図面及びイ号説明書記載の自動転倒ゲートにおいて、扉体を巻き上げるために扉体に取付けたワイヤーを、水路壁に沿つて近接して作動せしめる機構を有するものを製造販売してはならない。

(三)  被控訴人は控訴会社に対し金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表三行目の「構成」を「技術的範囲」と、同六行目の「その」を「本件特許の一実施例(特許公報記載のもの)」と、同枚目裏四行目の「構成」を「技術的範囲」と、同七行目の「その」を「本件実用新案の一実施例(実用新案公報記載のもの)」と各訂正し、同四枚目表一三行目「紫線カム41を回動させて」を削り、同枚目裏八行目の「本件発明の構成を充足し」を「この機構は本件発明の技術的範囲に属するか、又はこれと均等であつて」と、同一三行目の「構成を充足し」を「技術的範囲に属し」と各改め、同五枚目表一行目の「イ号物件」の次に「において、扉体を巻き上げるために扉体に取付けたワイヤーを、水路壁に沿つて近接して作動せしめるメカニズム」を加え、同一〇枚目表一行目の「問題ではなく、」の次に「本件実用新案はワイヤーを水路側壁に近接して作動せしめる思想が新規なものとして登録せられたのであり、ワイヤーと水路側壁との間隔が何センチあるかということは技術的範囲には属しないのであつて、イ号物件は」を加える。

2  控訴人らの主張

(一)  本件発明において「ストツバ部材8からの荷重が浮力伝達リンク15を介して同リンクの軸支点14に掛かる(そうでなければ前記屈折原理に基づく作用は生じない。)が、イ号物件では回動枠体からの荷重はカム41を介してカム支持軸40に掛かり、リンク装置を介して回動円盤51の支持軸50には掛からない。」とするのに誤りである。揺動部材12と13が14点において屈折自在に枢支連結された浮力伝達リンク15において、その軸方向に掛かる荷重が大きければ大きいほど14点における摩擦抵抗が大きくなり、その点を屈折させるのに要する力はより大きな力を要し、逆に荷重が小さければ小さいほど屈折しやすくなる。故にこの屈折解除機構における荷重の有無をもつて、本件発明とイ号物件との相違点とすることは誤りである。14点における屈折はリンク15に直角に作用する力によるものであるが、この力により屈折開始後(揺動部材12と13が一直線上の力の平衡状態を失つた後)には、軸方向に掛かる荷重がリンク15を押し曲げる力として現われるが、これは屈折開始後の余剰作動に過きない。

(二)  イ号物件は、原判決理由二3(三)’、(四)’記載の構成要件を具備するところ、右(三)’、(四)’記載のメカニズムの作用効果は、次のとおりである。

原判決別紙イ号説明書の図面により、回動円盤51の円周上57点において一端を屈折自在に軸着されたロツド56、56と55点において同じく屈折自在に軸着されたロツド43が係止解除を作用効果とする揺動部材を構成し、回動円盤の円周上に取着されたアーム53がフロート63のロツド62の上端に固定された支持板65を介して回動円盤51を反時計回り方向に回動せしめ、これにより前記揺動部材を屈折せしめ、これによりカム41を介して回動板30を係止ギヤから離開させて堰扉の係止を解除する。

このように右(三)’、(四)’、原判決理由二1(三)、(四)とその作用効果が同じであり、両者同一の技術範囲に属するものである。

(三)  特許権の保護は、新規にして進歩的な技術的思想の創作のうち高度なものを対象とするのであるから、本件特許権を侵害するか否かは、本件特許とイ号物件を分説対比して各メカニズムがそれぞれ別異の作用効果を現わしているか否かにより決定すべきではなく、本件特許の科学的に限定された技術範囲に属するか否かによつて決定すべきものである。

(四)  本件考案の構成部分は、原判決別紙本件実用新案登録請求の範囲記載のワイヤ8が水切り板5の外方側縁6に案内されて水路側壁に沿つてそれと略密着できるようにし、塵埃等の付着を防止するという発想が、新規にして進歩的な考案として登録せられたものである。イ号物件は、ワイヤ5を扉体の一方の端部に設けられた取付片4に決着し、水路側壁に沿つて位置するようにして、塵埃の付着を防止するという作用効果を十分に発揮できるようにしているから、イ号物件は本件実用新案権を侵害する。

三  証拠

本件記録中の原審及び当審における書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本件請求は全部失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一一枚目裏八行目の「枢着された」を「枢着され55点57点において屈折自在なる」と、同一二枚目表一行目の「ギヤ23」を「ギヤ33」と、同一二行目から一三行目にかけての「回動枠20のギヤ」を「回動枠30のギヤ33」と各改め、同一四行目の「ラチエツトホイール26」の前に「堰板を起立させる方向にのみ回転可能とする」を、同一六枚目裏一三行目末尾に「控訴人らの当審における主張は、右説示に照らし採用できない。」をそれぞれ加える。

2  原判決一三枚目裏七行目と八行目の間に、次のとおり付加する。

「控訴人らは、本件発明では、ストツバ部材8からの荷重が浮力伝達リンク15を介して同リンクの軸支点14に掛からなければ屈折原理に基づく作用は生じないというものではないとして、これを前提に、屈折解除機構における荷重の有無をもつてイ号物件が本件特許権を侵害しない根拠とすることは誤りである旨主張する。しかしながら、8aと13aは連結されていないから、浮力伝達部材である第一揺動部材12と第二揺動部材13を枢支連結14した浮力伝達リンク15にフロート18の浮力を作用させた場合には、浮力伝達リンク15は持ち上げられストツバ部材8と離開する筈であり、これが離開しないのは、第二揺動部材自体に加わる重力及び慣性による作用を除くと、浮力伝達リンク15にストツバ部材8からの荷重が掛かつてその摩擦抵抗によるものと考えられる。このことは、一端を固定した第一揺動部材の揺動運動を直線運動に転換するには、通常、右揺動部材の固定されていない倒の端に屈折自在に第二揺動部材を枢支連結し、右第二揺動部材の枢支連結されていない側の端にビンを取り付け、これを求める直線運動の動線に一致して設けられたガイドレール又は長孔に嵌入させるなどの運動規制の機構を用いて、第一揺動部材の揺動運動に応じて右ビンを直線的に往復運動させているのに、本件発明ではこのような運動規制の機構を欠いていることからも明らかであるし、また前記荷重が存在しないと、8aと13aは連結されていないから、浮力伝達リンクにフロート18の浮力が作用した場合に、第二揺動部材はその重力及び慣性によりそのままの位置で動かないこともあり得ることからも明らかである。して見ると、本件発明における屈折解除機構は、ストツバ部材からの荷重が必要不可欠であるばかりかこれを利用して浮力伝達リンク15の屈折を引き起こしているものであつて、右荷重は本件発明の不可欠の要素といわなければならない。これに反し、イ号物件においては、回転枠体30からの荷重はカム41を介してカム支持軸40に伝えられるものの、回動円盤51の支持軸50には伝達されないから、本件発明の不可欠の要素を欠いているものといわなければならない。」

二  よつて、以上と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 澤田英雄 裁判官 郷俊介)

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